店番メンバーの中にたこ焼きに一家言というかこだわりを持つ圭介と潤一郎がいたおかげかどうか、二−Iのたこ焼きは美味しいという話が回り出し、十一時過ぎには予想外の混雑に見舞われたが、分担をきっちりと決めていたこともあり、さしたる混乱もなく時間は過ぎていく。
「おにーちゃん、来たよ〜」
 そう言いながら真由子が由衣と屋台を訪れたのは、十一時を随分と回った頃だ。
「真由子ちゃん!」
「ようなったんやな」
 陽と晶が、そう言って笑顔を真由子に向ける。店の奥では、北斗も嬉しそうな顔を真由子に向けていた。
「なんとか無事に復活しました!」
 真由子はそう言っておどけたように二人に敬礼を返す。
「さっきまですごい人でしたね」
「高遠と武藤のおかげ…やな?」
 晶は真由子の言葉に、そう言って屋台の中の圭介と潤一郎に視線を送る。
「おにーちゃんと、武藤先輩…ですか?」
 真由子はそう言って首をかしげる。
「そやな。武藤の粉配合と、高遠の技術のおかげやな」
 晶の言葉を引き取るように、北斗がそう言って笑う。
「佐竹先輩は、なんも影響なしですか?」
「俺はなんもしとらへんから」
 北斗はそう言って由衣に苦笑いを返すしかない。その横では、苦笑いを浮かべながら、圭介が変わらずたこ焼きを焼いている。
「交替準備に来たでー」
 そんな圭介たちに、次の店番メンバーが声をかけに来る。
「配合表作っといたから、この通りに粉作って焼けよ」
 潤一郎は、そう言って級友にメモを渡す。
「忙しそうやな」
「これからが本番やからな」
 苦笑いを浮かべる級友に、潤一郎はそうニッと笑う。その面前でも、北斗と陽は客さばきを続けていた。
「ま、頑張ってくれや」
 苦笑いを浮かべる級友を尻目に、潤一郎はやおら立ち上がる。
「交替や!」
 潤一郎の声に、焼きに集中していた圭介を以外のメンバーが振り返った。
「高遠、交替やって」
「これ焼き終わったらな」
 絶妙な技でたこ焼きを返しながら、圭介は声をかけてきた晶にそう言う。全く振り返ろうともしない圭介に、晶は苦笑いだ。
「終わったら、みんなで回ろっか」
 晶はそう陽に声をかけて、彼女が頷くのを見て、また苦笑いを浮かべた。

 圭介が焼き終わったのを確認して、屋台の裏で圭介たち五人は集まった。なぜだか、真由子と由衣の二人もちゃっかりとその場にいる。
「お疲れさん」
 水道で汚れた両手を洗ってきた圭介が、そう言いながら最後に合流する。
「このあとどうすんねや?」
「ま、ボチボチ回ろうや」
 潤一郎は、自分たちの屋台のたこ焼きを頬張りながら、圭介にそう答える。
「明日はどうせ後夜祭まで来えへんやろ?」
 自分たちが帰宅部であり、文化部の展示と無関係なこともあり、潤一郎はそう聞く。明日は一般開放も同時に行うので、生徒以外の人間も多く、それなりの人出になってしまうのだ。生徒は、基本的に後夜祭だけ出席すればよい。
「そやな」
 そんな会話が二人で繰り広げられている間にも、由衣と真由子はじっとその会話が終わるのを待っていた。
「佐竹先輩、一緒に回りましょう!」
 その途切れを見計らったように、由衣が北斗にそう声をかける。横で、真由子は苦笑いだ。
「一緒に!?」
 面食らった北斗はそう聞き返すが、由衣は大きく頷く。
「あたしと、マユと、先輩と三人で」
「佐竹、行ってこいよ」
「そうそう、かわいい後輩のお誘いやぞ」
 由衣の言葉に、晶と潤一郎が絶妙のタイミングで救いの手を差し出す。少し逡巡した様子を見せたあと、北斗は由衣に顔を向ける。
「ほんじゃ…」
「やった!」
 由衣は真由子の方を向いて、笑顔を浮かべる。「ダシ」だったことが分かりきっている真由子は苦笑いだ。それでも、普段の由衣とのつきあいで、今日は譲ろうと決めていただけに、その行動に不満はない。
「じゃあ、また明日な」
「失礼しまーす!」
 陸上部トリオは、そう言いながら、人混みの中へ消えていく。
「さて、俺らもボチボチ行きますか」
 潤一郎は、そう宣言すると、仲間を先導するように歩き出した。

 文化部の展示とクラスの出し物と言うことで、校舎内はかなり活気に満ちている。展示と言っても、ギター研究部や演劇部、吹奏楽部などは、それぞれ教室を宛われて演奏や劇などの出し物を行っているだけに、賑やかでもある。
「あたし、演劇部だけは勘弁してな。あそこの顧問、勧誘しつこいから」
 中館一階の一番奥に陣取る演劇部の教室へ足が向きかけた時、晶はそう言って渋面を作る。
「演劇部の顧問って、金平先生やったっけ?」
「そうそう。金平先生とだけは、顔合わさんように頼むわ」
「映研『七人の侍』上映やって。渋いな〜」
「誰が出てるのそれ?」
「知らん」
「家庭研(カテケン)行こうや、家庭研。あっこの焼き菓子毎年旨いで〜」
「おまえさっきたこ焼き食ったやろうが」
 そんな軽口を言いあって、校舎の中をぶらついていく。
 中館二階に上がってきた時、校舎の奥から演奏が聞こえてきた。二階の奥では、ギター研究部が成果発表と言うことでライブを行っている。
「ギタ研観てくか?」
「悪ないな」
 言いながら、ギター研究部の教室をのぞくと、かなりの人入りで、教室から生徒がはみ出している。それでも、後夜祭バンドがギター研究部の中村望が中心となったバンドであることから、その中村を観ようと集まった人もいるらしい。その人垣の後ろに、圭介たちは陣取った。陽などは、必死で隙間を探して、見えるポジションを確保する。
 演奏は、中村望がメンバーに加わるバンドのようだった。後夜祭バンドとはメンバーが違うこともあり、演奏の質は取り立てるほどのことはない。
「やっぱ悔しいなあ…」
 その呟きを聞きつけ、陽は圭介を見上げる。中村は、このバンドではボーカルをとらずにベース演奏に専念しているようだ。
「高遠くん…」
 その声で、圭介も陽に視線を向けた。そうして苦笑いを浮かべる。
「やっぱ悔しいわ。ギタ研の連中に負けんのは」
 小声で、圭介はそう呟く。陽がその声に小さく頷く。
「好きでやってる、好きだから集まったって人たちだもんね」
「だからこそな」
 圭介はそう言う。その視線は、演奏中のメンバーに向けられた。
「即席バンドやったけど、技量は遜色なかったからな。だからこそ、勝ちたかったわ」
 そう言う圭介に、陽は優しい笑顔を向ける。初めて見た、圭介の激しい一面。その姿勢は、自分の中にあった悔しさも溶かしていく。
「来年は、勝とうね」
「そやな」
 圭介は視線を前に向けたまま、陽にそう答えた。

「あれ?」
 演奏が終わり、後ろを振り返った陽は素っ頓狂な声を上げる。その声に、圭介も後ろを振り向いた。
「晶ちゃんと武藤くんがいない…」
「ほんまやな」
 見だした時は後ろにいたはずの晶と潤一郎が、いつの間にかいなくなっていた。陽はきょろきょろと辺りを見回すが、どこにも二人の姿は見えない。
「どこいったんだろ…?」
「全く武藤は…」
 不安そうな陽に、圭介はそう言って乱暴に前髪をかき上げる。潤一郎の単独行動は今に始まったことではない。それでも、潤一郎には潤一郎の考えと行動基準があることを理解している圭介の愚痴は、そこまでだ。
「葛城、アイツらのことは放っといて回ろうぜ」
「えっ!?」
 圭介の急な提案に、陽は思わずびっくりして声を上げてしまう。
「どうせ武藤は探しても見つからんやろし、高橋も武藤に拉致られた可能性が高い」
「う、うん…」
「探すのも時間の無駄やし、他見に行こ」
 圭介の言葉に、陽は大きく頷いた。望外の幸せに、思わず胸が早鐘を打つ。

 同じ頃、潤一郎と晶は、同じ階の全く反対側にいた。その晶は潤一郎に向かって切れている。
「武藤、離せっ!」
「へえへえ」
 校舎の反対側まで来たことで、潤一郎はようやく晶を解放した。それまで、軽く口を塞いだりして、半ば力ずくでここまで連れてきたからだ。
「なにする気やねん、武藤!」
 無理矢理ここまで連れてこられた晶は怒り心頭だ。何事かと通り過ぎる生徒が奇異の目を向けていく。
「見ての通り」
「はぁ!?」
 そう言って涼しく笑う潤一郎に、晶は眉を寄せて睨み上げる。
「高遠と葛城を分離しただけや」
「分離って!」
「今日は俺と回ろうぜ」
 気色ばむ晶に、潤一郎はそう笑いかける。あっけにとられた晶は、思わず絶句する。
「もうええ加減、高遠のことで葛城意識すんのやめや」
 その言葉に、晶ははっとなって潤一郎を見上げる。
「だから、今日は俺が暇つぶしの相手になったる」
 その晶の様子を意に介した風もなく、潤一郎は涼やかに笑いかけた。
「おまえ、他に約束のある女おるんちゃうんか」
「今日は高橋の貸し切りやで」
 ようやくただ唇を曲げるだけになった晶に、潤一郎はそうニッと笑う。晶は、その軟派な笑顔を見上げたあと、ため息をついた。
(武藤の言う通りかもな…)
 親友の一喜一憂に刺激される学校生活には、疲れを覚え始めているのも事実だ。今は圭介と陽のどちらも選べないことはわかっている。
(武藤とだけいる方が、四人でいるよりええか…)
 そう思うと、晶は潤一郎の笑顔を仰ぎ見た。
「今日だけはつき合ったるわ」
「サンキュー。恩に着るわ」
 晶の言葉に、潤一郎はそうおどけると、晶の肩に腕を回す。
「ひっつくな!」
「ええやん、減るもんやなし」
「やかましい!」
 そうぎゃあぎゃあ言いながら、中館二階から二人の姿は消えた。
 その日、晶と陽は顔を合わせることなく終わった。


                                  To be continued…

2009.01.26 Ver.1.00 Up

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