「陽ーっ!」
「晶ちゃん!」
 楽屋へ通じる通路へ出ると、舞台の格好そのままで晶が駆け寄ってきた。
「お疲れ様! はい、これ」
 陽は晶にそう言うと、持ってきた花束を渡した。
「サンキュー! いっつもありがとな」
 まだ興奮冷めやらぬ様子の晶がそう言うと、陽は首を振る。
「すごかったね。内容知ってたのに感動して泣いちゃった」
 陽はそう言って照れくさそうに笑う。
「陽が手伝うてくれたおかげや。ホンマありがとうな」
 晶もまた、照れくさそうにそう笑った。
「うす。高橋」
「あ、高遠!」
 声でようやく気づいたように、晶は圭介に目をやった。
「すごかったな。マジで感動したわ」
「照れくさいわ。やめーや」
 陽の時と違い、本当に赤くなりながら、晶は苦笑する。
「また、機会があったら見に来るわ。っていうか、またチケットくれや」
「あ、ああ。また次の舞台も、見に来てや」
 圭介の言葉に不意打ちを食らった晶は、動揺を隠しながら、そう笑いかける。
「ああ。ほんじゃな。お疲れさん」
「じゃあね、晶ちゃん。また月曜日にね」
 2人はそう言うと背中を向けた。その陽の手を晶は軽く捕まえる。
「がんばりや、陽」
 いたずらっ子の顔でそう呟く晶に、陽は苦笑を返した。
「おーい、葛城。行くでー!」
 少し遅れた陽に、圭介は振り返ってそう声をかける。
「あ、うん!」
 圭介にそう返事をすると、晶に軽く手を振ってから陽はかけだした。
「がんばりや」
 晶は2人の背中にそう呟くと、花束を抱えて楽屋に戻っていった。
 その頬には、舞台を成功させた達成感と、圭介と陽を送り出した寂しさとが混ざった、複雑な表情が浮かんでいた。

「さーて、このあとどうしょうか?」
 圭介は劇場の入っているオリエンタルホテルの建物から出ると、陽を振り返ってそう聞いた。陽はそう聞かれて腕時計を見る。まだ20時にもなっていない。
「高遠くん。お腹すかない?」
「めっちゃ腹減った」
 陽の問いかけに、圭介はそう言って笑う。
「じゃあ、三宮まで戻って、ご飯食べて帰ろう?」
 自分の口からこういう言葉がすらっと出てくることに驚きながら、陽は圭介を見上げた。
「エエで。あんま金持ってへんから、マクドかラーメンとかでもかまへん?」
 目の前にあった牛丼屋をちらっと見てから、圭介はそう言った。
(さすがに、吉牛はまずいやろな)
 陽が頷くのを確認してから、圭介は地下鉄の駅に向かって歩き出した。

「じゃあね、高遠くん」
「おう。また月曜日にな」
 結局21時過ぎまでハンバーガーショップで話し込んでいた陽は、「遅なったし送るわ」という圭介の申し出を断りきれずに家まで送ってもらっていた。その間も、あれやこれやと話し込み、今まで知らなかった圭介のいろんなことを知って、自分のことも圭介に話せたと思う。軽く手を振って帰っていく圭介の背中が見えなくなるまで見送ると、陽はようやく家に入った。
「ただいま〜」
 陽は玄関でそう言うと、2階の自室に駆け上がっていく。荷物を机の上に置くと、ベッドに飛び込んだ。
(これ、夢じゃないよね…)
 今日一日のことを思い返して、陽は真っ赤になる。
 次の約束なんてものはないにしても、2人で出かけて、一緒に食事をして帰ってきたのだ。自分でもものすごい進歩だと思う。去年の自分からは考えられないことだった。
 陽はふっとカレンダーを見上げた。
 あと一月ほどで夏休みだ。
(夏休みになると、やっぱり会えなくなっちゃうのかなあ…)
 学校がある間は毎日でも会えるが、長い休みになってしまえば2人の接点は途切れてしまう。
(ちょっと、淋しいな…)
 陽はそう思うと苦笑いした。
 毎日会えないことが苦しくなるようなことは初めてだった。

 打ち上げが終わって、晶が家に戻ってきたのは日付が変わる直前だった。風呂に入って部屋に戻ってくると、もうすでに日付は変わっていた。
「あー、楽しかった」
 ベッドに大の字になると、晶はそう声に出す。今日の舞台は、自分でも満点の出せるできだった。それだけに充実感も興奮度も高い。
「次もがんばろっと」
 そう言って起きあがると、飾ったばかりの花束が目に入る。
「陽ら、うまいことやったんかな」
 そう呟いて苦笑する。けしかけたのは自分やないかと。興奮した気持ちが、楽屋通路で見た圭介の笑顔を思い出させる。陽が横にいたにもかかわらず、今日の陽の姿は全然思い出せなかった。
「あはは…。これが『人を好きになる』ってことか」
 そう言って、晶はおかしそうに笑った。今まで意識もしていなかった圭介にどんどん引き込まれていく自分がおかしかった。そして苦しかった。
「めっちゃ片思いやん…。それもライバルが陽なんやから」
 そう呟いて、ふっと前日潤一郎に言われた言葉を思い出した。
「同類…か。ホンマにどういう意味なんやろな?」
 達成感と満足感で充満している今は、潤一郎の言葉に対しても怒りが浮かばなくなっていた。そうして残ったのは、素直な疑問。
「あいつとあたしの似たような点ってどこなんやろ?」
 そう思ってみても、なにも思いつかない。いつもの軟派な態度の潤一郎と自分のどこが同じだというのだろうか。
「ま、エエわ! 今日は気分エエから考えんとこ!」
 晶はそう言うと、電気を消して毛布をかぶり込んだ。
 心地よい疲労感に包まれていた晶は、それから何分もしない内に眠りの世界へ落ちていった。

「ただいま〜」
「あ、おかえり、お兄ちゃん!」
 圭介が家に戻ると、真由子がひょこっと部屋から顔を出した。
「どうやった? 晶さんの劇」
 ぱたぱたとスリッパを鳴らしながら、真由子はリビングに出てくる。
「ああ。結構オモロかったわ」
 そう言って圭介は笑う。
「わざわざ部屋から出てきたってことは、なんかあるんか?」
 圭介がそう言うと、真由子は笑って頷く。
「来月の24日から5日間、部の合宿決まったから、その間家のことよろしくね」
「は?」
 真由子の言葉に、圭介は思わず聞き返す。
「その間に、家事増やしたら許さへんからね」
「へいへい」
 にっこり笑いながら目が笑っていない真由子の言葉に、圭介は適当に返して部屋に戻った。
(そっか、合宿か…)
 圭介は荷物を肩から下ろすと、ふっと息をつく。
(佐竹、喜んどおやろな)
 圭介はそう思うと笑った。
(ま、真由子がどう思っとおかは知らんけど、がんばれや、佐竹)
 圭介はそう思うと、苦笑いを浮かべた。
 北斗と真由子なら、いいコンビになりそうだなと思いながら。

                                  To be continued…

2005.02.27 Ver.1.00 Up
2007.08.17 Ver.2.00 Up

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