さんざん遊んだ1日も夕暮れが近づいた。
 夏場はナイター営業をしているこの遊園地も、まだこの季節は18時で閉園だ。
「さ。最後はお楽しみ観覧車で締めや」
 潤一郎はそう言って観覧車を指さした。
 この遊園地ができた81年当時は世界最大の大きさを誇ったこの観覧車も、その当時でさえありきたりな大きさということになってしまっていた。以前は南側が全て海で景色を誇ることもできたのだが、南側の埋め立ても進んで、今となっては特に目玉らしいものはない。それでも、六甲山の稜線に落ちる夕陽を眺めようというのは潤一郎らしい提案でもあった。
 圭介と陽を乗せたゴンドラはゆっくりと空へ上がりだす。赤く大きく焼けた夕陽は、稜線に掛かって今にも落ちそうだ。空は、オレンジから紫を経て闇に向かうコントラストを綺麗に現していた。
「綺麗やな」
 圭介の言葉に、窓の外を見ている陽は頷いた。
「遊園地でこんなに楽しく遊んだの久しぶり…。ホントに楽しかった…」
 そう言うと、陽は圭介を振り向く。
「ホントにありがとう…。すごく楽しかった…」
「そっか、よかったな。俺も楽しかったわ」
 夕焼けに照らされた陽の笑顔に、圭介も笑顔を返す。
「また、みんなで遊ぼうね…」
「ああ。そうやな。また、みんなでなんかするか」
「うん」
 圭介の笑顔に、陽は頷くとまた笑顔を返した。
「葛城、おまえ可愛いんやからさ、もっと笑っとった方がええぞ」
 圭介はそう言って笑う。
 その笑顔さえ陽にはまぶしく見える。
 圭介の言葉に、頬が熱を持つのがわかる。
「うん…。ど…努力してみる…」
 陽は赤くなって少し俯くと、そう言うのが精一杯だった。

 圭介と陽の次のゴンドラには、北斗と真由子が乗っていた。
「先輩っ、ほら、すっごく綺麗ですよ!!」
 真由子はそう言って立ち上がりそうな勢いだ。
「斉藤、座ってへんと危ないぞ」
 北斗はそう言って苦笑いをしていた。
「ほら、先輩あれっ!!」
 そう言って真由子が立ち上がった瞬間、ゴンドラが揺れて真由子はバランスを崩した。
「おっと!」
 北斗は自分の方に倒れてきた真由子を慌てて抱きとめる。
「あ…すいません!」
 真由子は少し赤くなりながら慌てて北斗の腕から離れた。
「はしゃぐんもええけど、気をつけんとな」
 北斗はそう言うと、また座って苦笑いする。
「先輩、わたしのこと、子供扱いしてませんか?」
 少し上目で頬をふくらせながら、真由子はそう北斗に聞く。
「…ええんやないか? それが斉藤やろ?」
 苦笑いで誤魔化したあと北斗はそう言ってまた苦笑いする。
「今日はええ休日になったわ」
「わたしもです!」
 言いながら窓の外へ視線を投げる北斗に、真由子も力んでそう言葉を返す。
「今月の末は県西との定期戦もあるし、明日からまた頑張ろうな」
「はいっ!!」
 優しくそう言う北斗に、真由子は大きく返事を返していた。

 その次のゴンドラは潤一郎と晶だ。
「ツアーコンダクターお疲れさん」
 ゴンドラが動き出すなり、晶はそう言って潤一郎を労う。
「なあに、こちらこそ、やで?」
 潤一郎はそう言ってにやっと笑う。
「葛城を高遠に近づけたかったんやろ?」
 潤一郎に図星を指されて、晶はうっと言葉に詰まる。
「…気づいてたんか?」
「だてに種馬やないんでね。それくらい見抜けない武藤くんじゃありませんことよ」
 おどけて潤一郎はそう言う。
「でも、無理にでも連れてきて良かったんやないか? 普段ほとんど笑わん葛城が、今日は良お笑ってたやねえか」
 潤一郎はそう言うと、窓の外へ目をやった。その視界の中、ひとつ前のゴンドラの中で真由子が元気にはしゃいでいるのが見える。
「ま、今日の俺たちはさながら父兄やな」
「よう言うわ…」
 軽く鼻を鳴らすように、晶はそう言って笑う。
「どうせ、またこのメンツで遊ぶことになるやろうから、またそんときはよろしくな、高橋」
「気が向いたらな」
 晶はそう言って笑う。
 苦手な部類に入るはずの潤一郎とのやりとりを、楽しみ始めている自分がおかしかった。
「なあ、高橋」
「なんや?」
 日の入りの風景を楽しんでいた晶に、不意に潤一郎が声を掛ける。
「俺に抱かれてみる気ないか?」
 潤一郎は口の端に笑みを浮かべ、いきなりそう言った。
「だ、誰が。お断りや」
 笑顔の中にも真剣な視線を投げられ、晶は少し動揺しながらそうきっぱり言った。
「ちぇっ…。せっかく天国を見してやろうと思ったんやけどなあ…」
「あたしはその手には乗らへんからね」
 わざと不満げな表情を作る潤一郎に、晶は笑いながらそう言った。
「人を見てから言いや」
「それもそうや」
 晶の言葉に潤一郎がそう言うと、二人は笑いあった。


 ゴールデンウィークはそのあとも何事もなかったように過ぎ、またいつもの学校生活が始まっていた。
「おっす、高遠、武藤!」
「高遠くん、武藤くん、おはよう」
 教室に入ってきた晶と陽は、そう圭介に声を掛けてくる。
「よお、高橋、葛城。おはよ」
 圭介もそう二人に挨拶を返した。
「うーっす、高橋、葛城」
 潤一郎もそう笑いながら二人に挨拶を返した。
「葛城、笑えるようになったんやな」
 潤一郎はそう言って圭介に向かってにやりと笑う。
「気色の悪い笑い方やめっ」
 圭介はそう言いながら潤一郎を軽くはたく。
「まあ、ええんちゃうか? きっと葛城の本来の姿はこっちなんやで」
 圭介はそう言って笑った。
「けけけ…。まるで彼女にしたみたいな言い分やな」
「おまえはそれしか頭にねえんか」
 圭介は再び潤一郎を軽くはたいた。
「よお、佐竹」
「ああ、武藤に高遠」
 暗い顔で入ってきた北斗を先に見つけて声を掛けた潤一郎に、北斗は気のない返事を返してくる。
「どした、佐竹?」
「なんでもない…。ちょっと寝不足なだけや…」
 あまりの北斗の惨状に声を掛けた圭介に、北斗はそう返してくると、大あくびをした。
 そして、予鈴が鳴る。
「どしたんや、佐竹の奴…?」
「さあなあ…。ま、何にしてもあいつにしては珍しいことやな」
 圭介と潤一郎がそう言い合っていると、1現の教師が教室に入ってくる。
「おーい、席に着けや〜。始めんぞ〜」
 慌てて席に戻る潤一郎を軽く見送ると、圭介はもう一度北斗の方を顧みた。北斗は前後不覚な様子でぼーっとしていた。
(なんや、佐竹の奴…。ボロボロやないか…)
 その理由に心当たりがないまま、1現目の授業は容赦なく始まった。


                                  To be continued…

2004.09.18 Ver.1.00 Up
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